企業の業務システム導入が失敗するのは、今に始まったことではありません。私の経験から申し上げても30年前から同じことが、何度も何度も繰り返されてきています。そして、クラウドやIoT、AIなどが急速に発展した2021年になっても変わっていません。
この記事では、私の実務経験から業務システム導入が、どうして失敗するのかについてまとめてみました。
業務システム導入の失敗ケース
まず、企業の業務システム導入の失敗ケースを見てみましょう。あなたの会社でも同じことが起こっているかもしれません。
新旧システムを同時に使い続けている
旧システムが古くなったので、新システムを開発することは良くあることです。しかし、新システムが導入され運用に入っているにも関わらず、相変わらず旧システムを使い続け、さらに新システムにも同じ情報を入力している企業があります。本来なら業務効率の改善を目標にしたはずなのに、無駄な入力業務が倍になってしまっています。
新システムが使えない
新システムの開発が完了。ベンダーに言われるがまま「OKです」と答えてしまったことで、実運用に入ると「全然使えない」ということもあります。最低でも旧システムと同じことが出来れば良いのですが、こういうケースでは「中途半端にしかできない」ことが多く、業務が滞ってしまうこともあります。
政府のシステムでも、こんな失敗が起こっています。
出典:朝日新聞デジタル(2019年7月27日)
出典:Yahoo!JAPANニュース(2019年10月10日)
社内の人間関係に歪みが発生
どこかの部署だけが楽できるように作られたシステムが導入されたことで、他部署の作業が倍増。その結果、残業が増えたり入力作業が増えたりして、部署間での人間関係に歪みが発生することもあります。こういうことが起こると、円滑に業務が進まなくなりますので、連絡も上手くいかず、クレームなどが発生しやすくなります。
失敗の原因
こういった失敗には、必ず原因があります。では、どういったことが原因になっているのかというと、とても単純なことなのです。
「企業側担当者が、しっかり手綱を握っていない」
もう少し具体的に申し上げるなら、次のような担当者がシステム導入へ関わっているかということです。
- 業務の課題を理解している
- 自社が作りたいものを理解している
- リーダーである担当者が適切なメンバーを集められる
また、ベンダー選定に関しても、リーダーが率先して検討し選ばないといけません。
企業のシステム導入で失敗するケースでは、ここで申し上げた「リーダー」が不在になっていることが多いものです。もし業務の課題が曖昧だったり、自分の業務範囲しか理解していなかったりすると、狭い範囲の業務だけが効率化できるようにベンダーと打ち合わせをしてしまい、他部署へ多大な作業を強いる結果になることもあります。
失敗しないための心得
企業が業務システムを導入するとき、できるだけ失敗しないためには、次の心得が重要になってきます。
- 自社内部に専門的視点で判断できる人がいないなら、外部の力を借りてもいい
- ITと業務に精通している「頭でっかち」ではないコンサルタントの協力を得るのも方法
- 自社とベンダーとの間で、言葉の定義を必ず行う
この3つの中でも、私がアドバイザーとして参加したときには、「言葉の定義」にかなり力を入れています。
例えば「出来高」という言葉が業務で使われている場合、請求の出来高なのか、支払いの出来高なのかを定義しておかないと、勝手な解釈で打ち合わせが進んでしまいます。また、「請求書」という一般的な言葉でも、「得意先へ出す請求書」という意味で営業担当者は使っていても、技術担当者は「外注先から送られてくる請求書」という意味で使っていることもあります。
些細なことのように感じますが、それぞれの立場や役職や経験によって、言葉が意味する内容は違っているため、必ず「定義」をすることが失敗しないための第一歩だと私は考えています。
業務システム導入成功のポイント
企業の業務システム導入を成功させるためには、「丸投げはしない」ということです。確かにベンダーへ丸投げするのは楽ですが、かなり高い失敗のリスクを背負うことになります。というのも、ITベンダーのシステムエンジニアやプロジェクトマネージャー全員が、あなたの業界や業務について高いレベルで精通しているとは限りません。
私自身、30年の会社員SE時代、お客様との打ち合わせで「何を言ってるんだろう」というシーンは何百回もありました。私の場合、お客様の前で「わかったフリ」はしないので、はっきりと「知らないので教えてください」とお聞きしていました。しかし、最近は「わかったフリ」をしてしまう専門職の人もいるため、
専門の人だし、わかってくれているよね
たぶん自分の考えている方法でOK
というような、勝手な思い込みが起こったまま最後まで進んでしまうこともあります。その結果、1000万円、3000万円、6000万円というような業務システムを導入することになり、実運用がスタートすると使うことができず意味の無い投資になることもあります。そして、ベンダーから納品され検収完了を伝えてしまうと、実業務で使えなくてもベンダーは責任を持ってくれません。
こういう状態は、導入した企業も開発したベンダーも、どちらにとっても良いことではありません。本来なら運用が始まったときお互いが「動いてよかった!」と喜べる関係を目指したいものです。
ベンダーの目標が変化することも理解しておきましょう
業務システムの導入で、ベンダーは契約するまでは「契約すること」を目標にし、契約後は「納品後の齟齬への対策(証拠保存)を十分にする」ことを目標にする傾向が強くなっています。
ここからわかることは、「お客様にとって使えるシステムを精一杯開発する」ことが、一番の目標ではなくなっているということです。そして残念なことに、この目標を変えてもらうことは、ほぼ不可能です。
ですから、あなたに覚えておいて頂きたいことは、システム導入を失敗せず成功させるためには、少数精鋭のリーダーを任命し、必要なら外部の力を借り、ベンダーへの手綱をしっかりと握っておくことなのです。