中小企業が基幹システムを選定するとき、様々なベンダーとオンラインで話を聞いたり、インターネットで資料請求したり、展示会へ足を運んで直接話を聞いたりするはずです。その結果、手元には多くの情報が集まっているのに、いくら検討しても選定できないということもあります。

もしあなたが、このような悩みを抱えておられるのなら、これからお話する内容が役立つと思います。業務システム開発・設計・運用を現場で30年にわたって経験して得た知識と技術から、中小企業が基幹システムを選定するとき、理解しておくことで成功しやすくなるポイントをまとめてみました。

中小企業の基幹システムには2種類ある

基幹システムという言葉は、かなり曖昧だったりします。というのも、基幹システムには大きく分けると2つの種類があるからです。まずは、それぞれの特性を覚えておきましょう。

業務系システム

企業の経営を担っているシステムを指しています。例えば次のような管理システムです。

  • 販売管理
  • 在庫管理
  • 受発注管理
  • 生産管理
  • 財務会計
  • 給与計算
  • 人事管理

どのシステムも、一度動き出すと止められないものばかりです。仮にこれらのシステムが止まると経営に大きなダメージが出てしまいます。

「止まるとものすごく困る」そういうものを「業務系システム」と呼びます。

業務系システムについては『基幹系業務システムとは?』で詳しくお話ししていますのでご覧ください。

情報系システム

企業のコミュニケーションを担っているシステムが大部分です。例えば次のようなシステムです。

  • メール
  • グループウェア
  • チャットツール
  • SNS
  • スケジュール管理
  • LINE

企業活動としては止まると困りはしますが、止まったときには別の方法で回避できるものばかりです。業務系システムと比較するなら

「止まってもなんとかなるシステム」が情報系システムと言えます。

情報系システムについては『基幹系情報システムとは?』で詳しくお話ししていますのでご覧ください。

基幹システム導入のデメリット

業務系システム、情報系システム、どちらを導入するにしても、次のようなデメリットは発生します。

打ち合わせの増加

どういったシステムを導入するのか。選定するときから具体的な導入内容を決めるとき。また、実際に導入する直前まで何度も打ち合わせをすることになります。この場合の打ち合わせは、社内のキーマン同士のこともあれば、システムベンダーのこともあります。

普段の業務を行いながら(普段の打ち合わせも参加しながら)、システム導入に関する打ち合わせにも参加しますので業務時間を使うことになります。また、こういった打ち合わせへ参加することになる人は、普段から仕事を多くこなしている人が指名されることになるものです。考えているよりもストレスに感じる方もいらっしゃいます。

業務フローの変化

基幹システムを導入するということは、これまでの業務フローのどこかが変化します。導入されるシステムに合わせた運用へ変化させることもあれば、これまで無かった連絡や情報の流れが出来ることもあります。

一般的に人間は変化を好まない生き物です。いつも一緒、これまでと一緒が大好きです。そのためシステム導入することで生まれる変化に嫌悪感を持つ人、反発心を抱く人、仕事が無くなると不安になり反対する人などが社内で出てくることもあります。これまで社内が平和だったのに、基幹システム導入の話が具体的になった瞬間、ギクシャクしてくることもあります。

使い方でトラブル

基幹システムが導入されると「従来と違う」ことが出てきます。例えば次のようなことです。

  • 画面のデザインが違うので、どこをクリックすればいいのかわからない
  • どの帳票を使えば自分の知りたい情報が集計されるのかわからない
  • 印刷できていたのにExcelで出力されるようになって戸惑っている

他にもいろいろとありますが、使い方でのトラブルは最初の3ヶ月くらい発生します。社内サポートの方にとってはストレス過多の時期になります。

先ほども申し上げましたが、人間は変化が嫌いです。手間が多かったとしても「前と同じ」が大好きなのです。また、手間が多かったことで社内のポジションを維持出来ていたという人も中にはいらっしゃいます。こうした人からすると、手間が無くなることは「自分の仕事が無くなって軽く見られている」という心境になることもあるようです。基幹システム導入とは、プログラミングされたシステムだけの話では無く、人間の心理にも配慮して進める話なのです。

基幹システム導入のメリット

基幹システム導入のメリットを見てみましょう。

可視化しやすい

基幹システムが導入されると、これまで曖昧になっていた業務の進行や結果を可視化しやすくなります。その結果、経営資源の効率化や運用を目指すことで、利益の向上や優れた人材獲得に取り組むことができるでしょう。

経営体力の強化

中小企業にとって経営体力の把握は重要です。しかし、現実に目を向けると月次での収支すらわかっていないということも多いはず。基幹システムを導入することで、日々の情報を正しく入力すれば管理会計・財務会計どちらもリアルタイムに見える化することができます。

京セラが導入しているアメーバ経営の根幹である「月次決算」も比較的簡単に実現することができるでしょう。

運用保守の軽減

最近の基幹システムはクラウドで利用するものが増えています。従来のように社内にサーバー設備が必要ありませんので、次の業務や費用の軽減が期待できます。

  • サーバー稼働のチェックや保守業務
  • サーバー室に必要な空調や冷房費用
  • サーバー室の入退管理機能
  • サーバーのアップグレード計画や費用
  • サーバーの稼働に必要な電気代

クラウド版基幹システムの場合、年間使用料は必要になりますが、社内にサーバー管理者を置く必要がなくなりますし、24時間監視もクラウドサービスを提供している会社が代行してくれますので運用業務の負担がかなり軽減されます。また、見えづらい部分ですがサーバーへのセキュリティー対策もクラウドサービス提供業者が行いますので、不正アクセスなどへの監視業務の負担軽減も期待できます。

テレワーク可能

クラウド版基幹システムを利用すれば、インターネットにつながることができる場所なら、どこからでも基幹システムを使用することができます。政府も推し進めている「テレワーク」を導入することも可能になります。

BCP対策で安心

クラウド版基幹システムなら、サーバー管理している会社が大切なデータやシステムの二重化を行ってくれています。例えば、普段使っているクラウドシステムは関東のサーバーだが、関東で地震が発生した場合は九州にあるサーバーを使う。こんなことも出来てしまいます。

災害時でも比較的簡単に利用するサーバーを切り替えることができますので、業務系システムの稼働が止まり、社内が騒然となる可能性も低くなります。

見えていなかった他部署の業務を発見

基幹システムの打ち合わせをすることで、これまで見えていなかった他部署の業務を発見することができます。その結果、いつも「締日に間に合わない」「月末に間に合わない」と言っていた理由を見つけることができます。「えつ!?そんなことしていたのですか?」ということも多々あります。

基幹システム選定のポイント

基幹システムを初めて導入する。古くなったので入れ替える。企業規模や仕事の内容に合わなくなってきたのでリニューアルする。様々な理由はありますが、どのようなケースでも選定するときのポイントは同じです。

課題の洗い出し

基幹システムを選定するとき、もっとも重要なのは課題です。どういった課題を解決するために基幹システムを導入するのかわかっていないと、適切なシステムを選定することはできません。ここで注意することは、企業内で発生する課題は部署やポジションで違っているということです。

  • 営業部の考えている「問題になっている課題」
  • 技術部の考えている「問題になっている課題」
  • 管理部の考えている「問題になっている課題」

一つの会社に所属し、共に活動しているのですが課題の内容が違っています。ここを理解しておかないと、どこかの部署だけの課題を解決することになり、他の部署から協力を得ることが難しくなります。

課題を洗い出すときには、まずは管理部が課題を洗い出し、その次に技術部と話をして課題を洗い出します。2つの部署から課題が出てきたタイミングで、営業部を交えて課題を洗い出します。

それぞれの課題が出てきたところで、会社の経営として必ず解決したいことを見つけ、課題に優先順位を付けていきましょう。

未来への視点

システム選定で課題の次に大切なのが未来への視点です。3年後、5年後、10年後の発展する会社をイメージし、今はまだ必要ではないけれど近い将来必要になること、10年後に目指すべき事などを見つけておきましょう。

基幹システムは、一度導入すると短くて5年は使います。長い会社なら10年は使います。そのため、未来の視点を持ち将来の発展も考慮した選定が必要になってきます。「今だけ何とかなればいい」という考え方は、3年後に「これじゃダメだわ」と後悔する原因になります。

目的の明確化

課題でもふれましたが、基幹システムを選定するときには明確な目的がないといけません。

  • 得意先から指示があったから
  • そろそろ入れ替えないと
  • まわりがクラウドだと言っているので

企業活動における明確な目的がないままスタートすると、使えない基幹システムを選んでしまうことになりかねません。また、目的が明確化していないと、自社では使わないような余分な機能まで導入してしまい、よく分からない業務フローが完成し混乱を招くことになります。

  • 請求処理を短期で終わらせるため
  • 部署別の収支管理を3営業日で終わらせるため
  • 手入力作業を少なくし会社全体の情報を一元化するため

小さな目的でも良いですし、全社にまたがる目的でも構いません。基幹システムを選定するために目的をはっきりさせておきましょう。

業務フローの見直し&再設計

基幹システムを選定するとき悩ましいのが次のことです。

「既存の業務フローが変わる」

多くのスタッフからは反発されることでしょう。しかし、基幹システムを選定するときには避けて通れない部分です。

偶然にも選定しようとしている基幹システムの流れが、自社の業務フローと合っていれば良いですが、私の経験から申し上げますと60%一致していれば良い方だと思います。ということは、ものすごくフィット率が高くても、残りの40%は業務フローの見直しや再設計が必要になるということです。「既存の業務フローは変更する」という気持ちで選定するのが失敗しないポイントです。

自社へのフィット率

できるだけ選定するシステムの入力順序や出力される情報は、既存にフィットしていることが望ましいです。しかし現実を見ると60%フィットすることはほとんどありません。そのため次のような手段を検討することになります。

  • 自社の流れに合わせてカスタマイズする
  • 自社の流れをシステムに合わせる

導入費用を抑えたいのなら後者です。導入費用よりも業務フローを優先するなら前者です。ここはどちらが正解というものはありません。ただ私の経験から申し上げますと、できるだけカスタマイズ箇所は少なくするのが理想的です。カスタマイズ箇所が増えるほど費用も増えていきますし、導入後のバージョンアップに支障が出てきます。

ケース別基幹システム導入ポイント

企業で行われている業務から、どういう基幹システムを選定し導入すれば良いのかをお話します。

Excelが業務の主体になっている企業

とにかくExcelが大活躍している。請求処理から入金消し込み、在庫や作業日報までExcelの達人が更新したり、マクロを駆使して自動化したりしている企業の場合、まずは各業務別にシステム導入することを考えましょう。

もっとも導入しやすいのは会計システムや給与計算システムです。

業務ごとにシステムが動いている企業

すでに各業務ごとにシステムが動いているのなら、データの一元化や二重入力を減らすためにもERP(統合システム)の導入を検討しましょう。一度データを入力すれば、どの部分まで自動的に連携してほしいのかを決めておくことで、最適なERPを選定できます。

オンプレミスERPが動いている企業

自社に設置されたサーバーでERPが動いている企業はまだまだあります。こういったケースで選定するなら、次のステップとしてクラウド化を目指しましょう。

全ての業務がテレワークできるとは思いませんが、クラウド化することで内業の方の半分以上は在宅ワークが可能になるはずです。働き方改革やテレワークの推奨、デジタル庁のスタートを考えると、一歩先に導入を検討しておきたいところです。

また、『業務システムの導入で失敗と成功を分けるポイント』について、まとめていますので参考にしてください。

さいごに

中小企業が基幹システムを選定するとき、難しいのは現存する業務フローをどうやって合わせるのかだと思います。この部分は永遠の課題であり、正確の無い問題でもあります。

そのため、まずは課題を洗い出すことで業務フローが変えられない部分と変えることで効率化できる部分を発見しましょう。ここが発見できると、基幹システムの選定ポイントが明確になりますので、導入してから使えないシステムに後悔することが無くなります。

もし自社内だけでは課題が発見しづらい(社内のパワーバランスなども関係して)場合は、外部の力を借りるのがおすすめです。外部の人間だと「どうやってるんですか?」「これって面倒じゃないですか?」と質問できますから、自ずと課題があぶり出されていきます。